NEWs保存道場

37 名前： クロッカス(dion軍) 投稿日： 2009/07/18(土) 01:04:29.30 ID:X/kfTysm
　俺、漁師の子で親父の仕事を手伝ってたから、
終業式だろうがなんだろうが朝から親父と漁に出てた。学校に行くのは昼近くな。
だから、ちょっとでも漁が長引けば、午前中に終わっちまう終業式なんかにゃ出られないってわけ。
今だったら教育を受けさせる義務の放棄だとか虐待だとかなんだとか言われるんだろうけど、
学校の先生やまわりの友達もサポートしてくれたな。他にもそういう漁師の子は居たしな。

　三年生の時に書いた作文が県知事賞ってのを取ったんだよ。
勉強も大して出来なかったし、作文を上手いと言われた事もそれまで無かったんだけどな。
そしたら先生が「役所人が来て終業式にみんなの前で賞状を渡すから、
明日は漁を早めに切り上げてはどうか。」と言ってきた。
田舎の人なら分かると思うけど、漁ってのはそう簡単に切り上げられねーんだよ。糸を垂らして釣りしてるわけじゃないからね。
先生にそれは無理かもしれないと言ったら、親父に自分が掛け合うと言って家までついてきたよ。
「これは凄い事なんです。明日だけ、明日だけなんとか。」と先生。親父は「そうですか。」と答えただけ。
そうですかってのは、自分には関係のない話だという意味だな。俺も仕方の無い事だと思ったし、先生も諦めたみたいだった。

　翌日、俺はいつも通り起きたよ。深夜三時な。天気もいい。いつも通り漁に行くために。
すると土間に立ってる親父が、今日は漁に出ないという。東から雨雲が迫っているし、シケるのは確実だからだという。
俺だって漁師の子だ、それが嘘だって事は分かる。「いいんだ、とーちゃん。賞状は後で貰えばいい。」
すると親父は「漁には出ねぇぞ。」と言って家にあがっちまった。
おかげでおれは三年生の夏の終業式は始めから出れたし、式の最中に賞状も役所の人から受け取れた。
その後、この時の「父さんと僕」という題の作文が県報に載った。

まぁ、全部嘘なんだけどな。